新型コロナウイルスによる経営破綻について
一連のコロナウイルス問題で,飲食店の経営破綻が増加しております。私(高山)は,飲食店は,人の衣食住を支えるものであり,重要なインフラであると考えております。特に,我が国では今後の少子高齢化を見据えた労働人口の確保の観点からも,女性の就労を促進する必要があり,そのためには,女性の仕事とされがちな「料理」を代行する機能として飲食店は必要不可欠であると考えております。例えば,台湾は女性の就業率が日本より高率ですが,それは街角に沢山みられる小規模飲食店が生活に組み込まれているからではないかと考えております。
ですから,一連の新型コロナウイルス問題を受けて,飲食店に対する支援がより強固に政策化されることを願っております。
しかし,飲食店向けの政策は,仮に設定されたとしても,明確かつ直接的な「補償」という形をとらないのではないかと思われ,今後,資金不足により飲食店が苦境に立たされる可能性が高いといえます。
そこで,飲食店を経営される方は次の方策について検討されるべきかと存じます。
①賃金の圧縮
コロナウイルスによる売り上げ減少を受け,店舗の一時休業やランチタイムの営業を取りやめることが考えられます。
しかし,現状で休業は経営者の判断によるものであるので,雇用している従業員については,給与の支払いを行わなければなりません。
飲食店の場合,アルバイトが主力となっていることもあろうかと思いますし,シフトを減らす,極端にはシフトをなくすことで,賃金の圧縮が可能のようにも思えます。しかし,法律上は労働契約で約束した賃金については支払わなければならないとされており,経営者の判断で休業をした場合も賃金の支払い義務は免れません。
したがって,労働者のシフトを契約以上に減らす場合などは,しっかり労働者と協議し,シフト減について合意に至っておく必要があります。なお,合意に際しては,合意の内容を契約書にしておくのが望ましいのですが,さすがに双方が押印をするとなると,身構えてしまって,難しくなることがあります。契約書は,後日の証拠のためのものであるので,LINEなどを用いるのも簡便でよいでしょう(ただし,LINEの通信記録はブロックなどで消える可能性があるので,スクリーンショットなどで保存されることをお勧めします)。
②賃料の支払い
店舗収益が著しく落ち込んだり,また休業をしたとしても,店舗の賃料は変更がありません。支払いを遅滞すれば当然,債務不履行になり,賃貸借契約の解除,建物の明け渡しを求められる可能性があります。
そこで,賃貸物件の所有者賃貸人に協議を求め,一時的な賃料の減額の交渉を行うべきです。賃貸人からしても,減額の期間が半年程度までなら,退店および再度の入居募集の手間を考えて応じてくれることがあると思います。また,店舗が破産した経験のある賃貸人であれば,飲食店が経営破綻した場合,原状回復が行われにくいことなども考慮してくれる可能性があると思われます。そして,賃貸人との間で合意がなされた場合,簡単な覚書を作成しておくことをお勧めします。
なお,今回の新型コロナ問題に関して,ある弁護士のブログで,「店舗家賃は20万円程度であれば少なく払っておいても大丈夫」という記事を拝見しましたが,これはとんでもない不見識であり,意図的な不払いによる契約解除のリスクを見逃したものとしか考えられません。
③リース物件
また,飲食店においては厨房機器をリースにしていることがしばしばあります。リース料についても,減額や繰り延べの交渉を行うべきです。
リース物件は冷蔵庫のような搬出が容易で汎用性の高いものから,建物に完全に取りつけてしまい,壊さずに取り外せないような厨房機器もあります。また,設置場所もショッピングモールのような搬出のルールの厳しい店舗から路面店のような搬出が容易な店舗も考えられます。
飲食店経営者の方は,これらの「持ち出しやすいかどうか」を検討し,リース会社との力関係を視野に置いて,リース会社への支払い交渉をされるとよいでしょう。
例えば,店舗に組み込んでいるような取り外しの困難なリース物件の場合,リース会社への不払いがあったとしても,リース会社は物件の引き揚げが困難です。とすれば,リース料についての交渉は比較的やりやすいことになります。